プロンプトの次はコンテキスト?工務店が知っておきたいAI活用を変える3つのエンジニアリング

プロンプトの次はコンテキスト?工務店が知っておきたいAI活用を変える3つのエンジニアリング
プロンプトの次はコンテキスト?工務店が知っておきたいAI活用を変える3つのエンジニアリング

プロンプトの次はコンテキスト?工務店が知っておきたいAI活用を変える3つのエンジニアリング

ChatGPTなどの生成AIが普及し、「プロンプト」という言葉を聞く機会が増えました。生成AIからより良い回答を得るために、「どのような指示を出すか」を工夫している方も多いのではないでしょうか。しかし、企業におけるAI活用は、プロンプトを工夫するだけの段階から、さらに次の段階へ進みつつあります。最近では「プロンプトエンジニアリング」だけでなく、「コンテキストエンジニアリング」や「ハーネスエンジニアリング」という考え方も注目されています。一見すると難しそうですが、基本的な考え方はそれほど複雑ではありません。

簡単に整理すると、

  • プロンプトエンジニアリング=AIへの「指示」を工夫する
  • コンテキストエンジニアリング=AIに必要な「情報」が届く仕組みをつくる
  • ハーネスエンジニアリング=AIに仕事をさせながら、安全に「制御」する仕組みを整える

という違いがあります。本記事では、この3つの違いと、工務店・住宅会社のAI活用にどのような関係があるのかを、具体例を交えながらわかりやすく解説します。

1.プロンプトエンジニアリングとは?

プロンプトとは、生成AIに入力する指示や質問のことです。例えば、AIに、「お客様へのメールを作って」と指示することもできます。しかし、「あなたは工務店の営業担当者です。住宅展示場に来場されたお客様へのお礼メールを、丁寧で親しみやすい文章で300文字程度で作成してください」と指示した方が、目的に合った回答を得やすくなります。このように、AIへの指示の仕方を工夫して、より適切な回答を引き出す考え方が「プロンプトエンジニアリング」です。

工務店であれば、

  • メール作成
  • 広告文章の作成
  • SNS投稿の作成
  • 議事録の要約
  • 提案書のたたき台作成

など、さまざまな場面で活用できます。生成AI活用の第一歩として、プロンプトを工夫することは現在でも重要です。しかし、企業でAI活用を進めていくと、プロンプトだけでは解決できない問題が見えてきます。

2.どれだけ良いプロンプトでも「知らないこと」には答えられない

例えば、工務店の営業担当者がAIに、「A様に最適な住宅プランを提案して」と指示したとします。しかしAIが、A様の家族構成、予算、希望する間取り、土地の条件、これまでの商談内容などを知らなければ、そのお客様に合った提案をすることはできません。これは人間でも同じです。優秀な営業担当者でも、お客様について何も知らない状態では、適切な提案は難しいでしょう。そこで重要になるのが「コンテキスト」です。

3.コンテキストエンジニアリングとは?

コンテキストとは、AIが回答や判断をする際に利用する「文脈」や「背景情報」のことです。例えば、「A様への提案を考えて」という指示だけではなく、

  • 家族構成
  • 予算
  • 希望エリア
  • 土地情報
  • 希望する間取り
  • 過去の商談内容
  • 自社の商品情報

などをAIが参照できれば、より状況に合った回答を生成できる可能性があります。現在でも、こうした情報をプロンプトに直接入力したり、ファイルを添付したり、必要な情報源を指定したりすることで、AIにコンテキストを与えることができます。つまり、「AIに何と指示するか」だけではなく、「AIが仕事をするために、必要な情報をどのように届けるか」まで考えるのが、コンテキストエンジニアリングです。プロンプトエンジニアリングが「良い指示をつくる技術」だとすれば、コンテキストエンジニアリングは「AIに必要な情報が届く仕組みをつくる技術」と考えるとわかりやすいでしょう。

4.工務店にはすでに大量の「コンテキスト」がある

実は工務店・住宅会社には、AI活用につながる可能性のある情報がすでに大量に存在しています。例えば、

  • 顧客情報
  • 商談履歴
  • 見積
  • 図面・CADデータ
  • 実行予算
  • 原価情報
  • 工程
  • 現場写真
  • 検査記録
  • アフターサービス履歴

などです。こうした情報は、これまで主に「業務を行うためのデータ」として蓄積されてきました。しかしAI活用という視点で見ると、「AIが顧客や案件、現場の状況を理解するためのコンテキスト」という新しい価値を持つ可能性があります。だからこそ、AI時代には「どのAIを導入するか」だけではなく、「自社の情報をどのように整理・管理し、必要なときにAIが利用できる状態にするか」が重要になってきます。もちろん、業務システムにデータが蓄積されているだけで、AIがその情報を自由に利用できるわけではありません。どの情報をAIに利用させるのか、誰が利用できるのか、どのように安全性を確保するのかといった設計も必要です。

5.さらにその先にある「ハーネスエンジニアリング」

必要なコンテキストを与えることで、AIはより状況に合った回答を生成できるようになります。しかし、実際の仕事では「回答して終わり」ではありません。

例えば、「現場会議の資料を作って」という仕事を考えてみましょう。実際には、

必要な情報を探す

過去の資料を確認する

内容を整理する

資料を作成する

人が内容を確認する

所定の場所に保存する

といった一連の作業があります。AIがこうした業務を支援・実行するためには、AIモデルそのものだけでなく、実際の業務を行うための仕組みが必要になります。例えば、SaaSなどの業務システム、そこに蓄積されたデータ、アクセス権限、業務フロー、人による確認・承認などです。

さらに重要なのが、「AIに何をさせ、何をさせないのか」をあらかじめ決めておくことです。例えば、

  • 閲覧できる顧客や案件を制限する
  • AIが変更できるデータや操作できる機能を制限する
  • 金額や契約に関する重要な処理はAIだけで確定させない
  • 顧客への送信や重要な処理の実行前には人間が確認・承認する
  • 想定外の処理が行われないようルールを設定する

といった仕組みです。このようなAIの行動範囲を制限する仕組みは「ガードレール」と呼ばれることがあります。また、AIにすべてを任せるのではなく、重要な判断や処理の途中に人間による確認・承認を組み込む考え方を「Human-in-the-Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」といいます。

こうした「AIが実際の仕事を行うための仕組み」と「AIを安全に制御するための仕組み」を含めて設計する考え方が、ハーネスエンジニアリングです。ハーネスには「馬具」「馬を制御するための装具」といった意味があります。AIに能力を発揮させるだけでなく、その能力を適切な範囲で安全に使わせる。このイメージで考えると、ハーネスエンジニアリングの役割がわかりやすいでしょう。

ここでSaaSは重要な役割を持つ可能性があります。SaaSには、業務に必要なデータが蓄積されているだけではありません。「誰がどの情報を見ることができるのか」というアクセス権限や、「どのような流れで業務を進めるのか」という業務プロセスが組み込まれているものもあります。つまりSaaSは、AIに必要なコンテキストを提供する情報源であると同時に、AIを安全に働かせるハーネスを構成する重要な要素にもなり得るのです。

6.「優秀な社員」に例えるとわかりやすい

3つの違いを、新しく入社した優秀な社員に置き換えて考えてみましょう。

プロンプトエンジニアリング

上司が仕事の指示をわかりやすく伝えることです。「何を、どのような目的で、どの形式でやってほしいのか」を明確にします。

コンテキストエンジニアリング

仕事に必要な情報を社員が利用できる状態にすることです。顧客情報、過去の案件、社内ルール、商品情報などを知らなければ、優秀な社員でも適切な仕事はできません。

ハーネスエンジニアリング

社員が仕事を進めるための仕組みを整えると同時に、「どこまで自分で判断・実行してよいのか」というルールを定めることです。例えば、

  • 担当している案件だけ閲覧できる
  • 見積書のたたき台は作成できるが、金額の確定には上司の承認が必要
  • お客様へのメールは作成できるが、送信前に担当者が確認する

といったルールです。優秀な社員だからといって、会社のあらゆる情報にアクセスでき、何でも自由に決定できるわけではありません。仕事に必要な権限を与えながら、重要な判断には承認を設ける。AIについても、これとよく似ています。

つまり、

「適切に指示する」

「必要な情報を利用できるようにする」

「仕事をさせながら、適切に制御する」

という関係です。

7.AIエージェント時代にはハーネスが重要になる

これまでの生成AIは、人が質問し、AIが回答する使い方が中心でした。一方、AIが複数の作業を組み合わせて仕事を進める「AIエージェント」の活用も広がり始めています。

例えば、「今週の現場会議の準備をして」という指示に対して、

必要な情報を集める

進捗を整理する

注意事項を抽出する

会議資料を作る

人に確認を求める

といった複数の処理をAIが支援する使い方です。

AIが「回答する」だけでなく「行動する」ようになるほど、重要になるのがハーネスです。AIがどのSaaSや業務システムを利用できるのか、どのデータを参照できるのか、どこまで操作してよいのか、誰の権限で動くのか、どの段階で人間の承認を必要とするのか。こうした仕組みをあらかじめ整える必要があります。

例えば、担当者が本来閲覧できない顧客情報を、AIを通じて取得できてしまっては意味がありません。また、AIが作成した見積金額を人が確認しないまま確定したり、AIが作成した文章をそのまま顧客へ自動送信したりすることが、すべての業務で適切とは限りません。AIにも業務システム側のアクセス権限などを適切に反映するとともに、重要な処理には人間の確認・承認を組み込む必要があります。

AIが高性能になり、自律的に行動できる範囲が広がるほど、「何ができるか」だけでなく「何をさせないか」「どこで人が判断するか」を設計することが重要になるのです。

8.工務店のAI活用も「個人利用」から「仕組み化」へ

現在、多くの企業における生成AI活用は、「社員がChatGPTなどを使って仕事を効率化する」というところから始まっています。もちろん、それだけでも大きな効果があります。しかし会社全体の生産性を高めるためには、一部のAIに詳しい社員だけが活用する状態から、誰もが業務の中でAIを利用できる状態へ進めていく必要があります。

そのためには、プロンプトを工夫するだけでなく、必要なコンテキストがAIに届く仕組みを整え、さらにAIをSaaSなどの業務システムや業務プロセスの中に組み込んでいく。同時に、アクセス権限やガードレール、人による確認・承認などを設け、AIを安全に利用できる仕組みを整えることも必要です。

このようにAI活用そのものを「仕組み化」していくことが重要になります。AI活用が個人のスキルに左右される状態から、会社の仕組みとして安全に利用できる状態へ。コンテキストエンジニアリングやハーネスエンジニアリングは、そのための重要な考え方といえるでしょう。

9.SaaSとAIの融合で「プロンプトに書かなくても伝わるAI」へ

コンテキストエンジニアリングという視点で考えると、工務店・住宅会社がこれまで利用してきたSaaSや業務システムの価値も変わってくる可能性があります。

工務店では、顧客管理、商談、見積、実行予算、原価管理、工程管理、施工管理、受発注など、さまざまな業務でSaaSや業務システムが利用されています。そこには、日々の業務を通じて、それぞれの会社や顧客、案件に関するさまざまな情報が蓄積されています。

現在、生成AIにお客様に合わせた提案を考えてもらう場合、

  • 30代の夫婦と子ども2人の4人家族
  • 共働き
  • 家事動線を重視している
  • アウトドアが趣味
  • 収納を多くしたい

といった情報をプロンプトに入力したり、必要な情報が含まれるファイルや情報源を人が指定したりする必要があります。

しかし、こうした情報がすでに顧客管理や商談管理などのSaaSに登録されているのであれば、人が毎回入力・指定するのではなく、AIが必要に応じて適切な情報をコンテキストとして取得するという活用も現実味を帯びてきます。例えば、「A様への次回提案を作って」というシンプルな指示に対して、AIがA様の家族構成、予算、住まいへのこだわり、過去の商談内容など、提案に必要な情報をSaaSから取得し、それらを踏まえた提案書や提案文を作成する。このような使い方です。

重要なのは、人がこれらの情報を毎回プロンプトに書いたり、参照する情報源を一つひとつ指定したりするのではなく、「AIが仕事に必要な情報を判断し、適切な情報源から取得する」という点です。

営業だけではない、SaaS×AIの可能性

同じ考え方は、営業以外のさまざまな業務にも広げられます。

  • 施工中の写真や工程情報に加えて、商談時に記録したお客様のこだわりや家族構成などもコンテキストとして活用し、一人ひとりのお客様に合わせた工事進捗報告を作成する
  • 見積や過去案件の情報をコンテキストとして、類似案件や確認すべきポイントを探す
  • 工程や施工情報をコンテキストとして、現場で確認すべきポイントを提示する
  • 過去の案件や実績をコンテキストとして、自社の傾向や経営上の気づきを提示する

例えば、施主への工事進捗報告についても、単に、「ウッドデッキの施工が完了間近です」と伝えるだけではありません。AIが施工中の写真や工程情報だけでなく、商談時に記録された「ウッドデッキには特にこだわっていた」「4人家族でペットと一緒に過ごしたい」といった情報をコンテキストとして利用できれば、「お打ち合わせの際に特にこだわられていたウッドデッキが、いよいよ完成間近です。ご家族4人とペットが一緒に過ごしてもゆったりできる広さで、完成後の暮らしが楽しみですね。」といった、そのお客様に寄り添った報告文を作成することも考えられます。

これは単なる文章作成の効率化だけではありません。顧客や案件ごとの情報をコンテキストとして活用することで、コミュニケーションそのものを一人ひとりに合わせ、顧客体験のパーソナライズにつなげられる可能性があります。つまり、SaaSとAIの融合によって期待できるのは「業務を速くすること」だけではなく、「これまで以上に一人ひとりのお客様に寄り添ったサービスを提供すること」でもあるのです。

そしてAI活用は、「人がAIに必要な情報を入力・指定する」という使い方から、「AIが必要な情報を判断し、適切な情報源から取得する」という使い方へ広がりつつあります。

一般的な生成AIは、幅広い知識を持っています。しかし、それぞれの工務店の顧客や案件、過去の実績まで最初から知っているわけではありません。だからこそ、SaaSなどに蓄積された自社固有の情報を適切にコンテキストとして利用できれば、「一般的な回答」ではなく、「その会社、その案件、そのお客様の状況に即した回答」を生成できる可能性が高まります。

AIが優秀だから個々に最適化された回答を生成できるのではありません。「その仕事に必要なコンテキストを利用できるから、より状況に即した回答を生成できる」。ここに、SaaSとAIが融合する大きな可能性があります。

10.SaaSは「コンテキスト」と「ハーネス」の両方を支える存在へ

ここまで見てきたように、SaaSとAIの関係は、単に「SaaSにあるデータをAIが利用する」というだけではありません。SaaSには、顧客情報や商談履歴、見積、原価、工程、現場写真など、AIが仕事をする際のコンテキストになり得る情報があります。例えば、住宅会社向け基幹業務クラウド注文分譲クラウドDXのように、顧客管理や商談、見積、実行予算、原価管理など、住宅会社のさまざまな業務情報を扱うSaaSもあります。

同時にSaaSには、アクセス権限や業務フローなど、実際の業務を安全かつ正確に進めるための仕組みもあります。つまりSaaSは、「AIが仕事を理解するためのコンテキストを提供する情報基盤」であると同時に、「AIが実際の業務の中で安全に働くためのハーネスを構成する重要な要素」にもなり得るのです。

ただし、ハーネスはSaaSだけで完結するものではありません。AIにどこまでの操作を認めるのかというガードレールや、重要な判断・処理について人間の確認・承認を必要とするHuman-in-the-Loopなども含め、AIを安全に制御する仕組み全体を設計することが重要です。

まとめ|AI活用は「良いプロンプト」だけでは終わらない

生成AIが登場した当初は、「AIにどのような指示を出すか」というプロンプトエンジニアリングが大きく注目されました。しかし、企業におけるAI活用が進むにつれて、それだけでは十分ではないことが見えてきています。

プロンプトエンジニアリングは「良い指示を与える」。
コンテキストエンジニアリングは「必要な情報がAIに届く仕組みをつくる」。
ハーネスエンジニアリングは「AIに仕事をさせながら、安全に制御する仕組みをつくる」。

そして、これらを実際の業務に当てはめて考えると、SaaSは重要な存在になり得ます。SaaSに蓄積された顧客・案件・現場などの情報はAIのコンテキストとなり、SaaSが持つアクセス権限や業務プロセスなどは、AIを安全に働かせるハーネスの一部にもなり得ます。

こうしたAIとSaaSの融合が進めば、人が必要な情報を毎回プロンプトに入力したり、情報源を指定したりするのではなく、AIが仕事に必要な情報を適切なシステムから取得し、その人の権限の範囲内で仕事を支援するという使い方も可能になっていくでしょう。

その先にあるのは、単なる業務効率化だけではありません。一人ひとりのお客様の家族構成や住まいへの思い、これまでの打ち合わせ内容まで理解したうえで、そのお客様に合った提案やコミュニケーションを支援するAI。そして、そのAIにすべてを任せるのではなく、人が適切に確認・承認しながら安全に活用する仕組み。

「良いプロンプトを書く」ことから、「AIが必要な情報を利用し、安全に仕事ができる仕組みをつくる」ことへ。工務店・住宅会社のAI活用も、個人のテクニックから、会社全体の業務やデータを活かす仕組みへと進み始めています。

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