国が描くAI時代の日本とは? 工務店が知っておきたい「人工知能基本計画」
国が描くAI時代の日本とは? 工務店が知っておきたい「人工知能基本計画」
AIの進化が急速に進むなか、日本でも国を挙げたAI活用が本格的に動き始めています。その方向性を示しているのが「人工知能基本計画」です。2025年12月、日本で初めてとなる人工知能基本計画が閣議決定されました。そして驚くべきことに、そのわずか約7か月後の2026年7月には、第Ⅱ期となる新たな人工知能基本計画が閣議決定されています。背景にあるのは、それだけAIの技術進歩が速いということです。では、国はAIによって日本をどのように変えようとしているのでしょうか。実はそこには、「バーティカルAI」「フィジカルAI」「AIエージェント」「AX」など、これからの建設・住宅業界とも深く関係するキーワードが数多く登場します。今回は、少し難しく見える「人工知能基本計画」を、工務店や住宅会社の視点からわかりやすく読み解いていきます。
そもそも「人工知能基本計画」とは?
人工知能基本計画は、2025年に成立した「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」、いわゆる「AI法」に基づいて政府が策定する計画です。日本がAIの研究開発や活用をどのように進めていくのか、その基本的な方向性を国として示すものと考えるとわかりやすいでしょう。日本ではこれまでも「AI戦略2019」「AI戦略2022」など、AIに関する国家戦略が策定されてきました。しかし、AI法の成立によって、法律に基づく「人工知能基本計画」という新たな枠組みが整備されました。最初の人工知能基本計画が閣議決定されたのは2025年12月23日。そしてAIの急速な技術進歩に対応するため、政府は閣議決定直後から次期計画の検討を開始し、2026年7月14日には第Ⅱ期の人工知能基本計画を閣議決定しました。国の計画がこれほど短期間で更新されたことからも、AIを取り巻く環境がいかに速く変化しているかがわかります。
AIは「答える」だけの存在ではなくなる
第Ⅱ期の人工知能基本計画を理解するうえで、まず押さえておきたいのが「エージェント型AI」です。これまでの生成AIは、人間が質問すると文章や画像などを生成してくれる「支援ツール」として使われることが中心でした。しかしAIは、そこからさらに進化しつつあります。人間から与えられた目的に応じて必要な情報を集め、考え、ツールやシステムを利用しながら、複数の作業を進めていく。こうした「エージェント型AI」の進展を、国も非常に重要な変化として捉えています。例えば工務店の仕事で考えてみましょう。「A様邸の今週の工事進捗をまとめてください」という指示に対して、単に文章を作るだけではなく、
- 工程を確認する
- 現場写真を確認する
- 予定との差異を整理する
- 報告内容を作成する
といった複数の作業をAIが支援するようになるかもしれません。AIは「質問に答えるツール」から、「仕事を一緒に進める存在」へと変わり始めているのです。
日本の「勝ち筋」はどこにあるのか?
AIというと、巨大な生成AIを開発している米国企業などを思い浮かべる方も多いでしょう。では、日本も同じように巨大なAIの性能だけで世界と競争すればよいのでしょうか。第Ⅱ期の人工知能基本計画では、日本が重点を置く領域として、「バーティカルAI」そして「フィジカルAI」が示されています。これは非常に重要なポイントです。日本には、製造、医療、物流、建設、インフラなど、さまざまな産業の「現場」があります。そして、その現場には長年蓄積されてきたノウハウやデータがあります。こうした日本の「現場の力」とAIを組み合わせることで、独自の競争力を生み出していこうという考え方です。
「バーティカルAI」とは?
バーティカルAIとは、特定の業界や業務領域に特化したAIです。一般的な生成AIは、非常に幅広い知識を持っています。一方で、住宅や建設の仕事では、
- 顧客情報
- 商談履歴
- 見積
- 実行予算
- 原価
- 図面・CADデータ
- 工程
- 現場写真
- 検査記録
- アフター履歴
など、その業界や会社の業務に関する固有の情報が重要になります。こうした専門領域のデータやノウハウとAIを組み合わせることで、その業界の仕事を深く支援するAIをつくっていく。これがバーティカルAIの考え方です。人工知能基本計画の策定過程でも、日本の競争力の源泉として、製造、医療、物流、建設、インフラ管理などの「現場データ」と「実装力」が注目されています。住宅・建設業界にとっても、決して遠い話ではありません。
(※)参照元:e-Gov 法令検索「建設業法(第十九条)」
DXで蓄積したデータが、ここでも重要になる
ここで、前回の記事「DXの次はAX? 工務店が知っておきたいAI時代の新しい業務変革」で紹介した「DXとAX」の話につながります。工務店や住宅会社では、これまでDXによってさまざまな業務がデジタル化されてきました。例えば、ダイテックの注文分譲クラウドDXや現場Plusをはじめとする住宅・建設業向けのクラウドサービスでも、営業や工事など、それぞれの業務で発生する情報をデジタルで管理・共有することができます。これまで、こうしたデータの主な目的は業務効率化や情報共有でした。しかしAI時代には、もう一つの価値が生まれます。AIが働くための「データ」になる可能性です。一般的なAIそのものは多くの企業が利用できます。しかし、長年の業務によって蓄積された現場データや業務データは、それぞれの企業や業界が持つ固有の資産です。AI時代には、「どのAIを使うか」だけでなく、「AIにどのようなデータを与えられるか」が重要になっていくと考えられます。
「フィジカルAI」とは?
人工知能基本計画でもう一つ重要視されているのが「フィジカルAI」です。生成AIは、主にパソコンやスマートフォンの中で文章や画像などを扱ってきました。フィジカルAIは、AIがロボットや機械などと結びつき、現実世界を認識して動作する技術です。例えば、
- ロボット
- 自動運転車
- 建設機械
- ドローン
などとAIが組み合わされる世界をイメージするとわかりやすいでしょう。建設業では、AIが図面や工程を理解するだけでなく、将来的には現場の機械やロボットと連携して、実際の施工や点検などを支援する可能性があります。日本が強みを持つ製造業やロボティクス、そして建設をはじめとするリアルな「現場」。そこにAIを組み合わせることが、日本のAI戦略における重要な方向性の一つになっています。
国が目指す「AX」とは?
そして、これらの技術を社会に実装するうえで重要になるのが、前回の記事「DXの次はAX? 工務店が知っておきたいAI時代の新しい業務変革」でも紹介した「AX(AI Transformation)」です。人工知能基本計画では、あらゆる組織でAIを前提として意思決定や業務の進め方を見直すAXを推進する方向性が示されています。ポイントは「AIを導入する」だけではないことです。例えば、人が資料を作り、最後にAIで文章を整える。これもAI活用です。一方、
- AIが必要なデータを整理する
- AIが資料案を作る
- 人間が内容を確認する
- 人間が最終的に判断・承認する
というように、AIが存在することを前提として業務プロセスそのものを設計し直す。これがAXです。つまり政府が目指しているのは、「国民みんなが生成AIを使えるようになる」というだけの話ではありません。産業、行政、暮らしなど社会のさまざまな仕組みを、AIを前提として再設計していこうとしているのです。
AIを増やすだけではなく「信頼できるAI」を
一方、AIに多くの仕事を任せるようになれば、新しい問題も生まれます。AIが間違った判断をしたらどうするのか。個人情報や機密情報は守られるのか。AIにどこまで仕事を任せてよいのか。最終的な責任は誰が持つのか。特にエージェント型AIのように、AIが複数の処理を自律的に進めるようになれば、こうした問題はさらに重要になります。そのため人工知能基本計画では、AIの活用を進めるだけでなく、「信頼できるAI」を実現することも重視されています。技術による対策だけではなく、制度や組織管理などを組み合わせながらAIを安全に活用していく考え方です。企業においても、
- 「AIに何をさせるのか」
- 「AIに何をさせないのか」
- 「どこで人間が確認するのか」
- 「誰が最終的に承認するのか」
まで設計することが、これからますます重要になるでしょう。
「AI主権」という新しい考え方
もう一つ、人工知能基本計画を理解するうえで注目したいのが「AI主権」です。AIを動かすためには、AIモデルだけがあればよいわけではありません。
- 半導体や計算資源、
- データセンター
- 電力
- 通信インフラ
- データ
- 人材
など、さまざまな基盤が必要です。もし重要なAIやデータ、計算基盤などをすべて海外に依存してしまえば、経済安全保障の面でもリスクになります。一方ですべてを国内だけで完結させることも現実的ではありません。そこで日本は、海外と連携しながらも、重要な領域については自ら選択し、開発・運用できる能力を確保するという「開かれたAI主権」を掲げています。AIが企業や社会の重要なインフラになればなるほど、「AIを使えるか」だけではなく、「どのような基盤の上でAIを使うのか」も重要になっていくのです。
工務店にとって人工知能基本計画は遠い話ではない
ここまで読むと、「国のAI戦略はわかったけれど、工務店にはまだ先の話では?」と思われるかもしれません。しかし、人工知能基本計画が示している方向性を整理すると、住宅・建設業界との接点が見えてきます。
- AIエージェントによって業務の進め方が変わる。
- バーティカルAIによって建設・住宅固有のデータの価値が高まる。
- フィジカルAIによってAIが現実の建設現場に入り込んでくる。
- AXによってAIを前提とした業務プロセスへ変わっていく。
そして、それらを支えるデータやAI基盤の重要性が高まる。これは決してIT業界だけの話ではありません。むしろ「現場」と「データ」の両方を持つ建設・住宅業界だからこそ、大きな変化が起こる可能性があります。
AI時代、日本の強みは「現場」にある
人工知能基本計画を読み解いていくと、日本のAI戦略の一つの方向性が見えてきます。世界最大のAIをつくることだけが、日本の勝ち筋ではありません。日本が長年培ってきた、
- 製造
- 医療
- 物流
- 建設
- インフラ
といったリアルな産業の現場。そこに蓄積されているデータやノウハウ。そして、それらをAIと組み合わせ、実際の仕事や社会に実装していく力。ここに日本ならではの可能性があります。工務店や住宅会社にとっても、今すぐ巨大なAIシステムを開発する必要があるわけではありません。まず重要なのは、日々の業務をデジタル化し、データを蓄積し、AIを安全に活用できる環境を整えていくことです。今日入力している顧客情報や見積、工程、図面、現場写真、原価、検査記録などが、将来AIが働くための重要な情報になるかもしれません。DXによってデータを蓄積し、その上でAIを業務に組み込みAXへ進む。さらに、そのAIが業界に特化したバーティカルAIとなり、現実世界ではフィジカルAIへと広がっていく。人工知能基本計画が描いている未来は、工務店や住宅会社にとっても、すでに始まりつつある未来なのです。
